不動産の売買を行なう際の契約は、原則として土地や建物の新旧所有者本人が行なわなければなりません。
しかし、本人が病気のため行けない、本人が遠方に住んでいるため行けないなど、やむを得ない事情で本人が契約できない場合もあるでしょう。
そんな場合、本人に代わって「代理人」が売買契約を結ぶことができますが、そこにはいろいろと注意点があります。
今回は、不動産契約を代理人が結ぶ際の注意点などを見ていきましょう。
■法定代理人と任意代理人、使者の違い
□法定代理人は法律で決まっている人で、任意代理人は原則的に誰でもなれる
代理人には、「法定代理人」と「任意代理人」がありますが、前者は法律の規定によって決まっている人、後者は原則として誰でもなれる代理人です。
● 法定代理人選定の条件
法定代理人が選定されるべき売買契約の当事者と、その法定代理人には、以下のような種類があります。
・「未婚の未成年」が売買契約の当事者→「親権者など」が法定代理人
・「判断能力が不十分な人」が売買契約の当事者→「成年後見人」「保佐人」「補助人」が法定代理人
「成年後見人」「保佐人」「補助人」は、売買契約の当事者の判断能力の程度によってその権限が異なり、成年後見人が最も権限が強く、次いで保佐人、補助人の順番に権限が弱くなります。
成年後見人が選定されている当事者の不動産を売買する際には、成年後見人がすべての権限を握っているのはもちろんですが、それ以外にも家庭裁判所の許可が必要となります。
ちなみに、「破産者」が所有している物件の売却では、売主が破産者ではなく「破産管財人」となります。
□使者には決定権がない
代理人と似たような言葉に「使者」がありますが、似て非なるものであり、使者には意思決定を行うことができません。
使者が勝手に契約内容の変更を申し出て、それを了承して契約を結んだとしても、使者の意思決定には効力がないため、契約内容が履行されなくても文句が言えない可能性があります。
■任意代理人には委任状が欠かせない
法定代理人と異なり、民法第99条および第102条の規定により、任意代理人には原則として誰でもなれます。
弁護士や司法書士はもちろんのこと、親族や第三者でも任意代理人となれるのです。
本当に当事者がその人を任意代理人に指名したのかを確認するため、委任状は欠かせません。
□委任状の書き方
では、ここでは委任状の書き方を見ていきましょう。
以下のような項目に沿って書くといいでしょう。
● 冒頭の文章
委任者A(以下「甲」という)は、受任者B(以下「乙」という)に対して、甲所有の下記不動産を下記条件で売却することを委任し、その代理権を付与する。
● 売買物件の表示
ここには、不動産の住所などを記入します。
● 売買価額
「金3,000万円」などと記入しましょう。
● 手付金の額
ここにも手付金の金額を記入します。
● 引き渡し予定日
「平成29年11月11日」などと日にちまで記入します。
● 違約金の額
売買価額に対する違約金の割合、その決定方法(決定権は誰にあるか)などを記入します。
(例:売買価額の5%相当額以上で、乙が買主と協議して定める)
● 公租公課の分担起算日
各種税金の負担割合についてはトラブルになりますので、「引き渡し日」などと起算日を明記しておきましょう。
● 金銭の取り扱い
買主から受け取ったどのお金(売買代金、手付金、印紙代、固定資産税などの清算金など)を、いつ(受領の都度など)、どのような方法で(甲の指定する銀行口座に振り込む、直接渡すなど)渡すか、領収証の発行は誰が行なうかを明記しておきましょう。
● 所有権移転登記申請手続等
誰が所有権の移転登記申請をするか(甲、乙、買主、仲介業者、司法書士など)、どのタイミングで移転登記申請を行なうか(全額の受領と同時など)、書類の準備は誰が行なうかを明記します。
物件の引き渡し(鍵、図面、関係書類)についても、どのタイミングで行うかを書いておきましょう。
● その他の条件
契約書の書式など
● 有効期間
委任状の有効期間を記載します。
更新の可能性についても、その条件と更新期間について書いておきましょう。
● 委任状作成の日付、委任者、受任者の氏名、住所など
■委任状以外で必要なものは?
代理人が不動産売買の契約をする際には、委任状だけでは不十分です。
使者ではなく任意代理人、法定代理人となっている場合には、委任状以外に以下のような書類が必要となります。
・印鑑証明書(売主と代理人の両方必要)
・実印(代理人)
・本人確認書類(売主と代理人の両方必要)
本人確認書類については、健康保険証ではなく、運転免許証やパスポートなど公的機関が発行した顔写真付きのものを用意するといいでしょう。
印鑑証明書については、3か月以内に発行された原本を1通準備しておきます。
売主の書類に不備があると、たとえ代理人に権限があるとしても代理人が契約を代行することができません。
代理人を依頼する人には、信頼が置けて代理権を逸脱しない人を選ぶといいでしょう。
また、売主本人の意思を電話や面談などで確認しておくこともおすすめします。
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