不動産が売れることが決まったら、後はお金を受け取って終了、というわけにはいきません。
売買契約が締結されたら、代金請求権を取得できる一方で、当該不動産の引渡し義務が生じているからです。決められた日程までに引渡しが完了しなければ、義務の不履行として損害賠償を請求されることもあります。無用な出費やトラブルを避けるためにも、引渡しは適切に履行しなければなりません。
引渡しにも注意をすべきポイントがあります。
このポイントを押さえておかないと、引き渡したい気持ちがあっても法的に有効な引渡しとはならないために、結果的にトラブルを招くことになるでしょう。
そこで、今回は売主が押さえておきたい引渡しの注意点について、主に引渡しまでに準備することと、実際に引渡しが行われる段階でのフローについて解説していきます。
①引渡しまでの準備編
■所有権移転登記
引渡しまでの準備で最も重要なのが、権利の所在を示す所有権の移転登記です。
登記が移転されなければ、実際に引き渡しても、法的に引渡しが完了したことにはならず、買主が住んでも売主が所有者のままです。そうならないために、権利が移転したことを示すこと、すなわち、登記を買主に移す必要があります。
登記というのは、自分で移すことはありません。登記の専門家である司法書士に依頼して行うことになります。基本的に、不動産業者が特定の司法書士とパートナーシップ契約を結んでいることがほとんどです。そのため、売買で仲介してもらった不動産業者に、そのまま司法書士も紹介されるというケースが多くなっています。
司法書士から必須書類の連絡があります。
これをもとに、書類を用意しておくわけです。この種類に漏れがあると、定められた日程までに所有権移転登記ができなくなるので、絶対に不備がないようにしなければなりません。
■抵当権抹消登記(住宅ローンが残っている場合)
まだ住宅ローンが売却不動産について残っていて、抵当権が付着しているような場合には、まずは住宅ローンを完済しなければなりません。
そして、抵当権抹消登記を、やはり司法書士に依頼して行っていくことになります。もちろん、これも期日までに済ませておかないと、引渡しができなくなります。
■境界調査などの現地確認
これは司法書士ではなくて、土地家屋調査士に依頼します。
土地家屋調査士の主導のもとで、隣家との土地の境界などについて明確にしていきます。このとき、契約の条件と相違ないかどうか、という確認をして、契約どおりの間違いない物件であることを証明するわけです。
調査の段階で思いがけず、境界について認識と異なる主張を隣家の所有者がしてくることもありえます。こうなると、調査に予定よりも時間がかかることになるでしょう。こういった事態も考慮に入れたうえで、早めに依頼して現地確認を行っておくと安心です。
境界が不明確なまま引渡してしまうと、後々、買主がトラブルに巻き込まれる可能性が高いです。現地確認の工程は引き渡しにあたって重要になります。
■退去
引渡しまでに引越しを完了させておく必要があります。
該当物件について、賃貸借契約を結んでいる場合もあるでしょう。そのような場合には、賃借人に連絡を取って、退去の締切日を伝えておくことが大事です。うっかり賃借人が退去日を誤認していて、引渡しに引越しが間に合わない、ということにならないように確実に伝えておきましょう。
⇒不動産の売買契約が済んでからの流れ・やっておくべきこと5選
②引渡しの際のフロー編
■売主からの物件の引渡しと買主からの代金の支払い
買主から売主へ、代金の支払いが行われます。特に買主が住宅ローンを利用する場合には、この時点でローンの開始となります。
引渡しは、物件を明け渡すだけでは足りず、前項で示したとおり、所有権移転登記が必要です。登記に必要な書類を買主に送付すると同時に、司法書士に登記を依頼します。申請は司法書士の業務で、抵当権が付着している場合には、この抹消登記の申請も司法書士が行います。
■公租公課の領収書作成
固定資産税や不動産取得税、都市計画税などの公租公課や物件の維持管理費は、引渡し前までが売主の負担で、引渡しが完了した以後は買主の負担となります。
この領収書の作成が必要です。
■確認書類の受領
土地境界の証明書や、契約条件にある付帯設備の保証書、物件の備品や鍵などを買主に渡します。そして、完了の確認書類を買主より受領することが重要です。
不動産業者に対しては、このタイミングで仲介手数料を支払います。その領収書を受領して媒介契約終了です。
③引渡しの注意点についてまとめ
■引渡しまで
・土地を明け渡しただけで引き渡し完了とはならない
・所有権移転登記が必要
・抵当権がついている場合には、抹消登記も行う
・隣人とのトラブルを避けるために、あらかじめ境界確認を実行しておく
■引渡し時
・登記の移転と代金の支払いは同時
・公租公課の負担義務は引き渡しを境に売主から買主へ移転
・引渡しにかかる完了の確認書類を受領
このようなポイントが、特に引渡しの注意点となってきます。
自分1人ですべてできるわけではなく、司法書士や土地家屋調査士、不動産業者との連携が必要となります。そのため、早い段階から引渡しの準備をして、実際の退去に向けて動いておくことが大切です。